温泉の治療効果を科学的に立証する ~まだまだ未解明な部分が多い~
(内田脳神経外科理事長 内田泰史)
酸性泉で成人型アトピー皮膚炎の8割が改善
まだまだ未解明な部分が多い温泉の治療効果ですが、成人型アトピー性皮膚炎に対しては、科学的に立証されています。
成人型アトピー性皮膚炎は、治療が難しく、第一選択薬のステロイド外用薬には副作用の問題があります。
しかしpH(ペーハー、酸性濃度)2.0の強い酸性のお湯では、その殺菌作用によって症状を悪くする黄色いぶどう球菌が減少するため、皮膚炎が改善されるのです。
皮膚の感染症に期待される温泉の殺菌作用
皮膚炎は昔から多くの患者さんが、温泉の治療効果を期待した病気の1つ。
<乾癬(かんせん)>
強い酸性の温泉+ビタミンD3の塗り薬で症状改善例
<水虫>
酸性硫黄温泉が有効とされ、特に緑バン(りょくバン)やミョウバンを含む温泉が効くと言われています。
しかし、現在では治療薬も進歩。
「治療の中心は薬剤で、時々温泉療法」くらいがよいでしょう。
<痔>
殺菌効果の高い酸性泉が最も有効ですが、そのほかの泉質でも効果がありますが、症状の改善には、患部の清潔が大きく関わっています。
長く続く温泉効果が肩こりやリウマチの痛みを和らげる
「温泉は湯冷めしにくい」。
これは温泉成分が、皮膚の表面を膜のように覆って発刊を防ぎ、保温効果を長続きさせ、血液循環を高めるからです。
筋肉、神経、関節などの痛みの緩和には、温泉の保熱作用によるところが大きく、特に塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉などが効果があります。
散歩などを組み合わせて、ゆっくり療養することも、効果を高めるポイント。
二酸化炭素泉は血圧降下や心臓の働きの改善に効果大
入浴は運動と同様に、重い心臓病には禁忌とされてきました。
しかし、ぬるめのお湯に入ると、慢性心不全の症状が改善することが分かりました。
これは、温熱効果によって末梢血管が拡張して血圧が下がり、心臓の働きがよくなるためと考えられています。
この効果は、発泡性の入浴剤でも得られます。
血圧の高い人や心臓の悪い人は、39~41℃位のぬるめのお湯に、みぞおち辺りまでつかる半身浴で10分ほど入り、入浴後は毛布などで保湿します。
午後8時以降に入ると、温熱作用や保温作用により夜間の血圧が下がります。
温泉のお湯や入浴剤の入ったお湯では、さらに血圧が下がりますが、夜間だけで翌朝までは続きません。
運動浴などを取り入れて治療効果を上げることも
温泉に付随する運動浴や転地効果などが、症状の改善に役立つ病気もあります。
糖尿病もその1つ。
糖尿病には、温泉そのものよりはむしろ、温泉プールでの運動浴や散歩、湯治場での適正カロリーの食事などが、血糖値によい影響を与えます。
また、ぜんそくや肺気腫などの治療に温泉プールでの運動や、蒸し風呂、温泉成分の吸入などを取り入れる医療機関もあるようです。
体のリズムを整えて心と体を健康にする効果
温泉成分そのものの効果よりも、むしろ温泉地にゆっくり滞在して保養・療養に努めることが、ストレス社会で乱れた自律神経や内分泌、ホルモンのはたらきなどを正常に戻し、健康な心と体を養う上で価値があります。